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大気科学的には地球温暖化の暴走など起きない


筑波大学名誉教授

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 地球温暖化に関しては、ティッピングポイント(閾値)を超えると(例えば温度上昇が1.5℃を超えると)温暖化が暴走を始める、という説明がなされることがあります。中には地球が金星のように熱くなるという人もいます。しかしこれは根拠のない脅しです。大気は異常気象が起こってもやがて安定に向かうことがわかっています。

 暴走は正のフィードバックで起こりますが、これは数学で言うところの線形論の現象です。温度上昇を変数Aとし、その値として1.5℃を考えてみます。変数A(原因)が増えるとB(結果)という量が増える、というひとつの因果関係があるとき、B(原因)が増えるとA(結果)が増えるという第2の因果関係が加わると、因果のループによりAが増えるとAが加速度的に増えることになります。これが因果関係のフィードバックで、システムが不安定化するといい、その結果Aの値は暴走します。例えば温度上昇Aと水蒸気による温室効果Bなどです。ティッピングポイントとは、モデルのパラメーターの振れで解の形が変わり、因果のループが走り出して不安定化する点です。こうなると、地球温暖化が因果のループで無限大まで暴走する、という予測になります。

 しかし、現実大気ではそのような暴走は起こりません。なぜでしょうか。

 現実の大気の変動は「気候値からの偏差量」として記述されますが、この偏差量を変数とすると以下のようになっています。

大気の変動 = 偏差量の1次の項 + 偏差量の2次の項

 大気の変動は、1次の線形項によって一時的に不安定化しても、2次の項である非線形項(移流項またはフラックスの収束項)が乱流を形成し、1次の線形項を凌駕して不安定の増幅を止め、安定化させます。これが非線形項の「有限振幅効果」で、線形項が生み出す不安定がいつまでも暴走することが起きないメカニズムです。

 乱流は未知の科学対象です。しかし、流体の気候値が不安定化すると、その不安定を解消するように擾乱が発達して乱流となり、乱流統計量(2次の項の応力)が変化し、新しい安定解に向けて変化させる働きがあることは分かっています。化学におけるルシャトリエの原理にあたるものが、大気力学における乱流統計量の変化だと思います。化学での拡散にあたるプロセスが、乱流混合の統計量の変化でみられるプロセスだ、ということです。このように線形論の暴走には乱流統計量の2次の項がブレーキをかけるので安定化します。

 もう少し、地球の大気の運動に即して言いましょう。地球大気の動きを駆動するのは、南北の温度差です。その温度差で生じる不安定で、最も重要なものは、傾圧不安定と呼ばれるものです。これが移動性の高気圧や低気圧といった、我々がふだん目にする気象の変化を司っている。傾圧不安定は、はじめは指数関数的に擾乱が増幅しますが、ある有限の振幅において波が砕波して渦となり、大気の混合による熱輸送が生じ、不安定は飽和し終了します。不安定を止めているのは有限振幅の非線形項つまり移流項であり、熱フラックスの収束項です。不安定は線形論ですが、移流は2次の項で乱流を作ります。

 さらに地球温暖化については別の安定化の作用もあります。

 地球全体の気温が高くなるとき、極域については、氷の量が減り、すると太陽光の反射が減ってさらに気温が上がる、といった正のフィードバックが起きます。このため北極付近は赤道付近よりも早く温暖化が進む。これが北極温暖化増幅というものですが、これを抑制するように大気は作用します。

 そのメカニズムですが、温暖化で北極圏が温まると赤道との間の南北での温度勾配が減るので、傾圧不安定が弱体化し、北向きの熱輸送が減少します。すると北極圏が温まらなくなります。これは負のフィードバック、つまり安定化を意味します。なお傾圧不安定が弱体化するということは、強い低気圧などが発達しにくくなるということですから、暴風雨や暴風雪はむしろ減ることになります。負のフィードバックが働くので気候感度も低くなります。これと同じことは同じ大気科学者の第一人者であるリチャード・リンゼンも言っています。

 そして温暖化で注目すべきことに、熱力学には乱流よりさらに強力なステファン・ボルツマンの法則があります。これは大気の温度の4乗に比例して放射冷却が起こるという法則です。ここでは変数は温度で、その4乗で冷却が起こります。温度は気体粒子の運動エネルギー(速度の2乗)の統計的平均量です。力学的な乱流では変数の2乗でブレーキがかかりましたが、これはそのさらに2乗の4乗でブレーキがかかります。

 地球温暖化がティッピングポイントを超えると暴走する、などという説明は脅しです。気候システムには強力な安定化プロセスが存在しているので、暴走は止まります。地球大気が過去1万年間ほぼ安定だった背景には、このような安定化システムの存在があります。