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世界での原子力の追い風、日本は利用できるか


経済記者。情報サイト「&ENERGY」(アンドエナジー)を運営。

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 世界で原子力発電を活用しようという声が強まっている。日本でも、他の先進国でも原子力はこれまで政治的な配慮で新設が難しくなり、この10年の間、世界的ブームとなった再エネより熱心に取り組まれていたとは言い難い。しかし国際情勢の変化がその見直しに影響している。日本の原子力界は、これをビジネスという成果に結びつけられないか。


3号機が稼働中の伊方原発(愛媛県伊方町、四国電力、出典:iStock)

気候変動問題で、なぜか原子力が議論されない

 「政治的姿勢の犠牲だった原子力エネルギーが、初めて多くの国々の気候変動に関する議論や緩和計画に組み込まれている。私たちは重要な役割を果たしている」アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで12月に開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)で、今回のCOPに出席した世界原子力協会のサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長は、米国の原子力メディアWNNによると、このように講演で語った。

 COP28では原子力をめぐる雰囲気が変わった。COPは各国の条約をめぐる政治交渉に加えて、国や企業、民間団体のイベントやPR活動が行われている。これまではそうした交渉や活動では、温室効果ガスの削減数値目標と途上国支援、そして再エネが目立ち、原子力をめぐるPRは注目度でいうと少し劣っていたように思える。

 気候変動問題を牽引しているのは欧州のリベラル勢力だ。その人たちの中にはかつて反核兵器、反原子力の政治運動をしていた人もいるので、原子力に熱意を示さないように、私は思えた。原子力は二酸化炭素を排出せずに巨大なエネルギーを生み出せる、気候変動で重要な技術だ。それなのに、とても不思議な状況だった。

 今回のCOP28では、米国の呼びかけで、22カ国が参加する「世界全体の原発の設備容量を2050年までに3倍に増やす」との宣言が12月2日発表された。()

 賛同したのは他に日本、フランス、英国、韓国、COP28議長国のUAEなど。また原子力発電所の新設を検討する東欧、アフリカ諸国の名前もある。フランスのマクロン大統領は、自ら署名式に出席して、Xにその写真をポストするほどの意気込みを示した。


マクロン仏大統領のXでのポスト

 COP28では世界の原子力産業界による「ネットゼロ原子力(NZN)イニシアティブ」が、政治での「3倍宣言」に協力することを誓約する「」が発表された。世界120社・機関が賛同と署名をしている。日本からは、電気事業連合会、メーカー、ゼネコンなど13社が賛同。政府の宣言文書には署名していないロシア、中国企業も名を連ねている。

 ウクライナ戦争による世界のエネルギー市場の混乱、そして欧州が依存していたロシアの天然ガスが使いづらくなっていること、さらに再エネは大量にエネルギーを供給できないという限界。こうした国際エネルギー情勢の変化があり、原子力の重要性が認識されたのだろう。

 世界原子力協会によると、世界の原発は436基。発電電力量の約10%をまかなっている。COP28に先立ちパリで開催されたWorld Nuclear Exhibitionで11月28日、IAEA(国際原子力機関)のグロッシー事務局長は数年以内に12~13か国が新しく原子力諸国の仲間入りをするだろうとし、ガーナ、ケニア、モロッコ、ナイジェリア、ナミビア、フィリピン、カザフスタン、ウズベキスタンがその候補であると発言した。原子力のビジネスチャンスは、世界では今後広がりそうだ。

変化に加わろうとする日本政府

 日本も、この流れに参加しようとしている。西村康稔経済産業大臣は12月5日の会見で、この「原子力3倍宣言」について「現時点では、2050年に日本が原発の発電容量を3倍にすることは想定していない。ただし世界全体で増やしていく中で、日本としてもそれぞれの国への技術支援や人材支援などに取り組んでいきたい」と述べた。

 日本は東京電力福島第一原発の事故後、原発への依存度をできる限り低減するとしていた。エネルギー基本計画では、現在は1割以下の発電量に占める原発の比率を30年度に20~22%に引き上げるとする。日本国内で原子力3倍は難しいだろう。

 しかしこの宣言は原発の活用に政策を転換した岸田政権への追い風になるはずだ。22年末に岸田文雄首相が発表した脱炭素化のためのGX(グリーン・トランスフォーメーション)政策では、再生可能エネルギーとともに原発を「最大限活用する」とし、「想定していない」としていた建て替え方針も盛り込んだ。

言葉は踊るが原子力の建設は足踏み

 けれども言葉だけでは状況は動かない。世界各国で原子力発電所の建設計画が持ち上がるもののなかなか具体化しない。建設のための初期投資が数千億円レベルの巨額になるためであろう。日本のように、原子力についての厳しい世論がある国では、建て替え、新増設に拒否反応が起きている。

 米国では、新型原子炉「小型モジュール炉(SMR)」開発を進める同国企業のニュースケール・パワーがアイダホ州での計画を11月に中止した。建設費の上昇に加えて、購入を予定していた米国の電力会社が採算を取れないと参加を取りやめたことが一因だ。

 22年3月に稼働したフィンランドのオルキルオト原子力発電所3号機は、竣工が遅れ、建設費は当初予定の35億ドルが約2.7倍の94億ドル(1兆3630億円)に増大した。福島事故後の安全対策費の増加によるものとされる。

 前述の講演で、世界原子力協会のレオン事務局長は、原子力産業に課題は多く「我々が目にし始めているこの政治的善意を、実行可能かつ現実的な政策に変える」必要があると指摘した。各国で認可と規制のプロセスを合理化し、資金を確保し、サプライチェーンの強化、人材育成などの問題を解決する必要があるという。

日本の原子力産業は中露と対抗する「自由陣営のもの」

 日本でも原子力政策の転換から1年が経過したが、具体的には目立った変化はない。原子力関係者の間には「笛吹けど踊らず。口だけ」との失望が広がっている。東日本大震災における東京電力の福島第一原発のあとで、厳格審査の影響で、原子炉の再稼働が遅れている。33基の原子炉のうち再稼働ができたのは12基だけだ。しかも、リプレースは具体化する気配がない。そしてリプレースは国が唱えるだけで、電力会社の間に具体的な動きはない。

 「原子力を動かせず経営が締め付けられているのに、原子炉の新増設なんてできるわけがない。国がおかしい」電力会社幹部はこのように話していた。

 それでも日本の原子力産業には、まだ希望がある。日本には原子炉を作れる東芝、日立、三菱重工の3メーカーがあり、福島事故の処理、その後の国内での対策で、安全への知見を積み重ねた。しかも日本は自由陣営の国だ。原子力の海外での建設で活発に動く、中国、ロシアとは違う。筆者は東欧の外交官とエネルギー産業をめぐる情報をやり取りしたが「日本の原子力は自由陣営の技術だ。世界のどの国も、中国やロシアの原子炉を使い、国の基盤になる電力システムに彼らをかかわらせたくない。世界に売って頑張ってほしい」と期待していた。

 日本の原子力産業は、国内でのリプレースの可能性を探りながら、海外での受注で利益を確保して生き延びるしかないと、誰もが考えるだろう。現実には、なかなかビジネスは厳しい状況だが、それでも原子力の変化を利用して、ビジネスに挑んでほしい。

 日本企業の原子力での成功は、国益、そして世界の未来へつながる。日本政府、そして国民の応援も必要だ。この流れに乗れなければ、世界の原子力産業で、中国、ロシアが主導権を握ってしまう。もしくは、米、仏、韓国に将来の市場を取られてしまうかもしれない。今が復活の最後のチャンスだ。