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気候科学を虚偽情報から分離できるか?

ー シグナルとノイズ ー

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監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子

本稿はロジャー・ピールキー・ジュニア「」を許可を得て邦訳したものである。


出典:

 気候変動は現実に起こっており、しかも重要な問題である。緩和政策と適応政策はとても理に適う。そして科学的誠実さも重要である。一方、気候変動問題の政治的な運動家たちは、異常気象の科学について、科学界の実際の研究や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価から大きく逸脱した表現を使って情報を広めることに大きく成功している。

 この投稿は、広く知られた3人の科学者を含む気候変動活動家たちが先週行った、大手メディアがに成功した、という出来事に触発されたものである。一言で言えば、ABCニュースは、マウイ島ラハイナの火災と災害において、気候は主要な、あるいは重要な要因ではなかったという正確な記事を書いた。だがその後、この記事は気候の影響を強調するように、。このような、お好みの公的シナリオを強制しようとする一種の活動家的な科学者は、と呼ばれている。

 そこで、この投稿では、このようなナラティブ(物語)的な強制力に対して、実際の科学を用いて反撃しようと思う。下の図を見てほしい。1995年から2050年までの北大西洋の大型ハリケーンの年間発生数について、3つの気象データの時系列グラフが示されている。そのうちの2つは気候の大きな変化を示しているが、1つはそうではない。

 さて、3つのうちのどれに気候変動が含まれ、どれには含まれないと思うか、またなぜそう判断するのか、少し考えてみてほしい。

 答えはこうだ。

  • 一番上のグラフは、2022年までについては、北大西洋のである。2023年から2050年については、1945年から2022年までの年間発生回数に基づいて確率分布を計算し、その確率分布からランダムに年間発生回数を選んでいる。
  • 中央のグラフでは、この確率分布を、2023年から順に1カウントシフトしている(つまり例えば、3つの大型ハリケーンが発生する確率が、4つの大型ハリケーンが発生する確率になる)。この調整は、2100年までの予測値の変化よりもはるかに大きくものであるが、思考実験としてやってみる。
  • 一番下のグラフは、さらにもう1カウント、つまり2カウントシフトした場合の時系列である。これは確率の変化がはるかに大きい場合である。

 この3つの確率分布を、上の図に合わせて色分けしたのが以下の図である。この種の図は、気候に関する議論ではよく見られるようになったもので、この投稿記事の一番上にその例がある。

 このことから2つの重要な教訓を得られる。

 第一に、一番上の図にある気候変動の推移は、いずれもIPCCが定めた気候変動の「検出」の基準を満たしていない。

 しかし、少しお待ちいただきたい!私たちは、時系列で気候が実際に変化したことを知っている。なぜなら私が変えたからだ。

 さて、それはどういうことなのか?

 まず、特定の気候変数について、その根底にある気候が変化し、その変化の結果が(気候学的に)短い時系列では検出できないことは、可能性があるというだけでなく、しばしばあり得ることである。私が1995年から2050年という期間を選んだのは、その期間に私の子供たちが50代になり、現在の私と同じ年齢になるからだ。つまり私が1960年代から今日までの時系列を見るのと同じことだ。そして実際のところ、気候変動の検知や予測に関する研究の多くは、もっとずっと短い時系列を使っている。

 異常気象や災害をすべて気候変動と結びつけるのは、今日、気候変動問題の政治的推進者たちのお決まりとなっている。私の疑念は、彼らがこのようなことをするとき、実際には変化の「検出」や「帰属」(訳注:気候変動との因果関係の同定のこと)について何かを語っているのではない、ということだ。むしろ、単に、気候変動の現実と、その彼らにとっての重要性を目の当たりにしているだけにすぎない。 このように気候変動について語るのは、「気候変動が十分に大きいと認識されなければ、人々は十分な恐怖を抱かないのではないかという懸念」に対して、先制攻撃を仕掛けて防御するためなのかもしれない。

 教訓:特定の変数に対する気候変動のが、過去の変動との関連で(まだ)検出できないからといって、気候変動が実在しない、あるいは重要ではないということにはならず、 ほとんどの場合、気候変動のシグナルが見られないことは想定内のことである。

 実際、IPCCがほとんどの異常な気象現象に関して結論づけているのはまさにこのことであり、下の図、および、通りである。以下の表の白いセルは、現在、そして2050年、2100年(それぞれ右端の3列)までにはっきりとシグナルを検出できないと予想される場合を示している。(訳注:この図については詳しくはを参照)。

 あらゆる異常気象を、気候変動が原因であるとして、「気候変動と関係がある」「気候変動によって悪化している」「気候変動によって拍車がかかっている」といったふうに吹聴する気候問題の推進者たちは、ほとんどすべての場合において誤った情報を広めている。それは科学ではなく信仰の表現である。このことが、検出と帰属に関する公共の場での議論を複雑にしている。ある人々はまるで深く抱いた信仰のような感情を表現し、ある人々はデータや証拠について話している。これでは、人々が互いにすれ違ってしまうのも無理はない。

 次いで、上の図の一番上の図(黒の直線で描かれた傾向線)を見ると、1965年から2050年にかけて北大西洋の大型ハリケーンの活動が大きく減少していることがわかる。時系列の開始時点では年間4つあった大型ハリケーンが、終了時点では2つしかなく、50%も減少している。

 この減少は、この記録の初期と比較して、終盤の方が大型ハリケーンより少ないという意味で現実的なものではあるが、年間確率はデータ範囲全体にわたって変化していないため、気候の変化とは無関係である、と言える。

 以下に示す図と比較してほしい。これは、上のパネルの一番上の図から取られたデータセット全体を示している。

 下の図は1945年から2080年までを示しているが、最初から最後まで50%増加しているのがわかる。しかし、この傾向も気候の変化の結果ではない。なぜなら2023年以降についても毎年の発生確率はそれ以前と同じで一定として計算したものだからである。

 さて、どういうことか?

 多くの気候変数は大きくばらつく。例えば、1945年以降、北大西洋の大型ハリケーンは0の年もあれば7つの年もある。これは大きなばらつきだ。

 上で示した3つの確率分布は、観測に基づく主要なハリケーンの年間発生数の2.6回(黒)と、シフトした2つの確率における約3.6回(赤)と約4.6回(緑)を表している。このシフトされた確率は、主要なハリケーンの年間発生数の約40%と約80%の増加を示している。これは、において評価された2100年までのほとんどすべてのモデル予測よりもはるかに大きい(付言すると、多くのモデルは実際には減少を予測している)。

 気候変動によって予測される異常な現象の特性の変化の多くは、過去の変動から見れば、実際には小さなものである。 これは明らかな事実である。上のIPCCの表をもう一度見てほしい。さらに、過去の変動幅は十分に大きいので、様々な時系列を見て、観測結果の良いとこどりを行い、あたかも変化が起きているように錯覚してしまうのだ。(上の2つの時系列と黒い傾向線を見てほしい)。

 教訓:自然界における変動性は現実であり、重要である。それは、気候変動が現実のものでも重要なものでもないという意味ではない しかし、気候が変化していてもそのシグナルを検出することはしばしば困難であり、また一方で何もないところから誤ってシグナルを見つけ出すというリスクも常に存在するということである。

 IPCCが気温と降水量について、大きな空間スケールで気候変動を検出し、それを報告しているのには、それなりの理由がある。これは、最も多くの測定値があり、集約することによって変動が小さくなり、シグナルとノイズの分離が容易になるからである。気温と降水量については、世界中で何百万回もの測定が行われている。だが他方で、1945年から2022年までに北大西洋で発生した大型ハリケーンは78回しかない。数は重要なのだ!

 しかし、気候科学者エド・ホーキンスが説明するように、気温の場合でさえ、局所的なレベルでは検出とその帰属の特定は困難である(原文は以下、太字参照):

 気温変化のシグナルは、気温の自然変動の強さや時間変化と同様に、空間的にも変化する。これらの2つの側面が組み合わさることで、気候がどのように変化しているのかを、その土地で体感することができる。一般の人々にとって、これは非常に重要なことである。だが個々の場所、特に変動が激しい地域では、10年単位の時間スケールで傾向を検出することは極めて難しい。

 検出と帰属の課題は、適応政策も緩和政策も、気候変動だけによって正当化するのではなく、より広範な根拠を基盤として構築されなければならないということを、私たちに教えてくれる。

 これまでのところ、気候変動問題の運動家たちは、気候変動がすべてであるという主張を裏付けるために、科学に対する認識を形成しようとしてきた。しかしそうではなく、科学が実際に述べていることと一致するように政策を形成していけば、気候変動の問題はもっとうまく解決するはずだ。